大分で会いましょう。東京ミーティング ~Meeting in Tokyo~ Review
  • 松浦弥太郎(エッセイスト・編集者)
  • 橋本栄子(サリーガーデン湯治 柳屋代表)
2018年6月24日(日) / 
VACANT(原宿)
松浦弥太郎(エッセイスト、編集者) 1965年東京生まれ。エッセイスト、編集者。2003年、セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年から約9年間、創業者大橋鎮子のもとで『暮らしの手帖』の編集長を務め、その後、ウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。
橋本栄子(サリーガーデン 湯治 柳屋代表) 大分県でシフォンケーキと素朴な焼き菓子の店に私設美術館を併設したサリーガーデンと、別府市鉄輪湯治 柳屋を経営。アート・リトリートをテーマとする鉄輪カレッジ代表。大分の先人に学ぶ会、風のシューレ主催。
「座談の思想」という本で、数学者の岡潔と科学者の中谷宇吉郎が由布院でいかに楽しく建設的なおしゃべりを繰り広げていたかについて書いてある。そして日本において「座談」が論文・評論に比していかに不当に軽視されてきたかについても、同書は教えてくれる。

本当の人となりは終始一貫綺麗に組み立てられた文章よりも、「座談」のようなおしゃべりの中にずっと力強く立ち現れてくるのだ。

矛盾、歯切れの悪さ、沈黙、失言、勘違い、大いに結構。僕は生の人間だけが持つそういうノイズが大好きで、つまり言葉にならない声を聞き取るために、詩を愛し、本屋をやっているようなものだ。
弥太郎さんは「旅の目的とはお詣りだったことに気付いた」と言っていた。栄子さんは自身の美意識を「センスよくしようとしたのではなく、ただ整えようと努力し続けているだけ」と言っていた。
ミーティング当日は、ノイズなどほとんどなく流暢なリズムと笑顔でトークは流れていったが、実はその穏やかさは会場に占めるたくさんの大分出身者たちに支えられたものだ。というのは(もちろん、蓋を開けて見ると大分出身者が多かったため、結果的に、ということだが)今回は登壇者から参加者に情報を伝達するという通常のイベントの方向性ではなく、会場の皆様と栄子さんと私から、旅好きの弥太郎さんに時間の許す限り大分の魅力を伝えよう、という珍しい方向性を持ったイベントだったからだ。そこはお互いにサポートの空気に満ちた会場で、出てきた情報を誰がどのように活用してもいい、という上下や利害の消滅した一種のサークル・コミュニティが形成された稀有な時間だった。
弥太郎さんは、昔自分が高校を飛び出してアメリカに行ったことを、「今思えば逃避だった」と言っていた。栄子さんは湯治とは放電することだ、といつも聞かせてくれる。私は疲れたら全てから逃げ出して実家でいつまでも眠りたいと思うときがある。
大分は、先ずもって、逃避先でいいんじゃないかなと思う。道州制だ都市間競争だと力むよりも、人間のノイズや逃避を全部抱きしめておしゃべりをして、そこから何かを作り始めるような、そういう街を作っていけたらいいなと、思った。

岩尾晋作
(カモシカ書店店主、「大分で会いましょう。」コーディネーター)