大分で会いましょう。vol.8 Review
  • 近藤康太郎(作家/評論家)
  • 辛酸なめ子(漫画家/コラムニスト)
2019年3月15日(金) / 
NINAU(日田市)
近藤康太郎(作家/評論家) 作家・評論家。東京・渋谷生まれ。現在は大分県日田市在住。日田を舞台に、全国紙で「アロハで猟師してみました」を連載中。『おいしい資本主義』『「あらすじ」だけで人生の意味が全部わかる世界の古典13』など著書多数。
辛酸なめ子(漫画家/コラムニスト) 雑誌やウェブサイトなどで活躍する漫画家・コラムニスト。独特なイラストや文体で特に30代・40代の女性層に支持されている。著書に『魂活動場』や『大人のコミュニケーション術』など。
 近藤さんは新聞記者でありつつ、米作り、狩猟をします。そう言うと多趣味な新聞記者だなあ、と思われるかもしれませんが近藤さんのそれらは趣味というものではありません。思想があり、それを実践しているのです。身を挺した社会実験。
 近藤さんの考えは、すごく単純に言うと、経済が拡大しなくても人は幸せに生きていけるのだ、ということです。東京生まれの東京育ち。九州に来るまでは渋谷とニューヨークにしか住んだことがない近藤さんが、貨幣だけに頼らない生き方を米作りと狩猟を通して自ら僕たちに示しています。詳しくは著書があるのでぜひ一読をお薦めします。
 辛酸なめ子さんは、独特のタッチのイラスト、そして多岐に渡りつつなめ子さんだけの切り口で、セレブ、皇室、アート、スピリチュアルまでを語る稀有なコラムニストです。
 なめ子さんは道中、常にメモ帳を離さず、気になったことはすぐに質問していました。特に楽しんでいたように見えたのは、お昼ご飯を食べたときに学生時代の話になったときです。「女子の国はいつも内戦」という名著もあるなめ子さん。このへんの出来事への関心がとても強い。
 狩りをする評論家と、不思議なコラムニスト。何とも異色な組み合わせに見えるかもしれませんが、このお二人、実は長い付き合いのようで。というのも近藤さんは、全国で腕を振るう敏腕ライターですが、以前、文化部の新聞記者として、都内で大活躍していた時期があり、かなり初期からなめ子さんを記事に取り上げ親交されていたそうです。
 そんなふたりのやりとりは抱腹絶倒。ぜひライブ配信のアーカイブをご覧ください。

 今回の旅の軌跡はこちら。

Day 1

  • 1
    深見堂

     空港から宇佐のマチュピチュ、そして女岩、男岩の珍スポットを横目にランチ。地域おこし協力隊だったという福岡からの移住者がオーナーのとんでもなく素敵なカフェです。古民家を改装した店内の空気に落ち着きを感じて居心地が良い。料理はおいしい野菜、パン、そしてなんとジビエ。内装もそうですが、料理も組み合わせ方に只者ではないセンスを感じさせる深見堂。ぜひ足を運んでみてください。デザートも絶品でございました。

    深見堂

    宇佐市安心院町森18
    HP:https://www.facebook.com/fukamido/

  • 2
    朝日新聞日田支局

     近藤さんの私塾、夜な夜なマスコミ関係の若者が集う秘密の学校。近藤さんの講義を拝聴しましたが、こんなエキサイティングなレクチャーが行われている日田はひたすらすごい。プロの書き手としてやっていく覚悟、技術、日頃の読書、全てを指南してくれます。もちろん本当の物書きは言われたことをやっていればいいだけであるわけがなく、この私塾で学べる最も大切なことは近藤康太郎の生きざまを間近で目撃せざるをえない、ということに尽きます。塾生はみな20代の若者。書くことで生きている大先輩、辛酸なめ子さんの特別講義に真剣な眼差しを向けておりました。

    朝日新聞日田支局

    大分県日田市田島2丁目1−3

  • 3
    ㈳NINAU

     前回梅川壱之介さん、佐藤武司さんとお訊ねいたしましたNINAU。詳細は前回レビューをご覧ください。代表の岡野涼子さんの理念の結晶で、素晴らしいところです。今回はライブ配信会場としてお借りいたしました。

    ㈳NINAU

    大分県日田市元町15-1
    HP:http://www.ninau.or.jp/

Day 2

  • 4
    地底博物館 鯛生金山

     ゆっくり休んであくる朝。鯛生金山に行きましたよ。僕も小学生ぐらいのときに家族と行った記憶がありますが、それっきり。なんとなめ子さんも小さいころに家族と行ったことがあるとのこと。そのときは、日田の町からタクシーで向かい、思いのほか遠かったことから夫婦げんかが始まってしまってその記憶が主なものだそう(笑)。久しぶりにご堪能いただきました。
     地底博物館というだけあって、圧巻の洞窟風景。鍾乳洞などは行ったことのある人も多いかもしれませんが、人口のトンネルでここまでの規模のものに実際に潜る経験はなかなかできないのでは? しかも公開されている部分は全体の一割にも満たない。
     19世紀に発見されて、イギリス人の経営者の下で近代機器が導入、その後日本最大の金山となったらしい。この近代機器の遺跡のようなものを今でも実際に見ることが出来るだけでなく、手作業で採掘していた時代の模型も実物大人形を使って再現しており、その違いは色んな思いが湧き起こされます。とてもきついお仕事だったろうこと、それでも人をひきつけて止まなかった金鉱石の力、人間というもの。
     一時は鉱毒による反対運動もあったようで、あまり知られていない歴史ですが、何か世の普遍的なものを感じることが出来ました。
     現在は、レストラン、お土産屋、キャンプ場などを併設し、観光施設となっております。砂金取りが思いのほか難しくて楽しいので絶対にやってみるべきです。僕は真剣になって掬ったけど、収穫は一粒、係員さんが分けてくれたものに留まりました。自分の没頭具合に、これはやはり金が取れるからなのだろう、と大人の自分に悲しくも可笑しくもなったのでした。

    地底博物館 鯛生金山

    大分県日田市中津江村合瀬3750
    HP:http://taiokinzan.jp/

  • 5
    富貴寺

     今年度を通じて初めての県外、熊本県を通り抜けて、再び大分は国東へ。旅庵 蕗薹でお昼を頂き富貴寺を訪れました。大堂の一部は平安時代からのもので国宝。阿弥陀座像、壁の仏画はともに重要文化財に指定される大分の至宝です。
     手の形が阿弥陀仏を表わしていること、しかし阿弥陀の座像は珍しいこと、壁画などの装飾は全体で極楽を表わしていること、などを住職さんがお話してくださいましたが、それだけではなく、過去には公民館のように地元の人たちが気軽に集う場所として使われていたことや、倒木により屋根が欠損し、一時雨ざらしになっていたことなど、近所の話を聞くように富貴寺のことを教えていただきました。
     なめ子さんは住職の話を聞いて、やはり極楽に行きたいと思ったそうで、日頃から功徳を積んでいるそうです。いつも時間を気にしてくれ、気さくに話を聞いてくれ、こんなに一緒に仕事がしやすくみんなに愛されそうななめ子さんは極楽に行けると思いますが、はっきりとはわかりません。このわからなさ、が宗教なんだよなあ、としみじみと考えました。
     しかし平安時代というと8世紀から12世紀。この時代の彫刻、絵画、が目の前に見ることができるというのは世界でも稀なのでは? 今一度注目したい富貴寺です。

    富貴寺

    大分県豊後高田市田染蕗2395
    HP:https://www.visit-oita.jp/spots/detail/4796

  • 6
    大谷池

     さあ、とんでもないところにやってきました。ここは「堤」と言われるところ。風光明媚というわけでもなく、何か施設や設備があるわけでもなく、何もないのです。人口の池があるだけなのです。蚊が多そう。
     この池は何なのかというと、田んぼのための溜池です。貯水池です。この池の下流に田んぼがあって稲作が行われています。じゃあそこに何をしに来たのかというとここで近藤康太郎さんの登場というわけです。
     「堤」とは鴨の狩猟場なのです。現在日本には多くの田んぼが耕作放棄地として放置されています。田んぼの近くには必ず溜池があって、放置された田んぼの溜池には人はまず立ち寄らない。そうすると鴨が集まる場所になるのです。そこをハンターは狙いに入るというわけです。
     気配を消して池に近づいて、鴨の存在を確認したら、爆竹のようなもので音を出して鴨を飛び立たせます。そこを、「バーン!」と散弾銃で撃つのです。弾が当たってからがまた勝負、鴨が墜落する場所を目視し、そこまで回収に行かねばなりません。猟犬とはそのためにもいるのだそうですけど、視力のいい人間もとても役に立つそうです。
     なめ子さん、「鴨がどこに落ちたのかを見る係」ならなんとかできそうだ、とのこと。
     命を無駄にしないよう近藤さんは獲った鴨を知人のレストランに無償で送っているそう。

    大谷池

    大分県国東市国東町中田

 今回は禁猟期間に入っており、狩猟の光景を実際に見たわけではないのですが、話をリアリティたっぷりに聞くと、狩猟について初めて身近に感じることが出来たと思います。まずは何よりも命のやり取り。そしてそれを食すということ。普段から実は殺生と隣り合わせに暮らしているということ。そうやって人間はずっと生きてきたのです。
 近藤さんは狩猟時代には男女差別はなかった、と言います。みんなが役割を分担して暮らしていたのだと。農耕が貧富の差、権力、そして男女差別の根源なのだという研究、仮説はすでに確立されているそうです。
 本当のこと簡単にはわからないけど、行動してみて初めて見える景色というのは間違いなくあります。稲作、狩猟を通して見えている近藤さんの景色は太古のものに似ていながら実は僕たちの未来のものなのかもしれません。

岩尾晋作
(カモシカ書店店主、「大分で会いましょう。」コーディネーター)